公開日:2026年8月23日
遠距離の引っ越しで最後まで決まらないのが、車をどうやって新居まで持っていくかです。家財はトラックに積んでもらえますが、車は積んでもらえません。自分で運転していくか、陸送業者に頼むか。この二択で迷ったまま引っ越し当日を迎え、結局その場の勢いで決めてしまう人を多く見ます。
判断の材料はそれほど複雑ではありません。距離と、そこにかかる時間をいくらと見るか、この2つでほぼ決まります。近距離なら自走が圧倒的に安く、長距離になるほど陸送との差は縮まり、ある地点から先は陸送のほうが総合的に得になります。この記事では、陸送の費用相場と自走の実費を並べて、どこが分岐点になるのかを整理します。
車を運ぶ手段は、陸送料金と自走の実費だけで比べても答えは出ません。運転に使う時間と、到着後に自分がどんな状態でいたいかまで含めて比べるべきです。
引っ越しで車を移動させる方法は、大きく分けて3つあります。自分で運転していく「自走」、専門業者に運んでもらう「陸送」、そしてフェリーに車ごと乗る方法です。それぞれ費用も所要日数も、当日の自分の負担もまったく違います。どれが正解ということはなく、距離と日程、そして車そのものの価値によって最適解が入れ替わる、と考えておくのが実際に近いです。
まず前提として知っておきたいのが、引っ越し業者のトラックに自家用車を積んでもらうことは基本的にできないという点です。標準引越運送約款が想定している荷物は家財であり、自動車はその枠外にあります。引っ越し業者が「車も手配できます」と言う場合、実際には提携している陸送業者に取り次いでいるだけ、というのが一般的です。
| 方法 | 費用の目安 | 向いているケース |
|---|---|---|
| 自走(自分で運転) | 燃料代+高速代+(宿泊費) | 300km程度までの距離。運転が苦にならない人 |
| 陸送(積載車による輸送) | 15,000円〜150,000円程度 | 長距離。車に負担をかけたくない場合 |
| 陸送(ドライバーによる回送) | 積載車より安いことが多い | 中距離。走行距離が増えても構わない場合 |
| フェリー(車ごと乗船) | 航路により大きく変動 | 北海道・九州・沖縄など離島を含む移動 |
| 新居で買い替え | 売却額と購入額の差 | 車が古く、運ぶ費用が車の価値に近い場合 |
※ 費用は距離・車種・時期によって大きく変わります。あくまで一般的な目安です。
引っ越し業者のトラックに車は積めません。「車もお願いします」は、提携先の陸送業者への取り次ぎになるのが一般的です。
陸送には2つの方式があります。積載車(キャリアカー)に載せて運ぶ方式と、ドライバーが実際に運転して届ける回送方式です。前者は走行距離が増えず、タイヤや下回りにも負担がかかりませんが、料金は高めです。後者は料金を抑えられる代わりに、その距離ぶんの走行距離が加算され、燃料も消費されます。新車や高年式車、思い入れのある車なら積載車、実用車で距離を気にしないなら回送、という選び方になります。
フェリーに車ごと乗る方法は、北海道や九州、離島を含む移動で現実的な選択肢になります。自分も同じ船に乗れるので、到着後すぐ車を使えるのが利点です。ただし乗用車の航送運賃に加えて自分自身の旅客運賃がかかり、時期によっては予約が取りにくくなります。船の時間に合わせて前後の日程を組む必要もあるので、引っ越し当日と重ねるのは避けたほうが無難だと感じます。
私自身は、車の価値や状態によって判断が変わると感じています。走行距離が10万kmを超えた実用車に高い積載車料金を払うより、回送で済ませるか、いっそ売却して新居で買い直すほうが合理的なこともあります。運ぶ費用が車の下取り価格に近づいてきたら、一度買い替えも選択肢に入れて計算してみてください。
陸送料金は「距離×車のサイズ×時期」でおおむね決まります。まずは距離帯ごとの目安を見てください。普通車(5ナンバー・3ナンバーの一般的なサイズ)を積載車で運ぶ場合の水準で、業者や時期によってこの前後に収まることが多い、という程度の目安です。実際の金額は必ず見積もりで確認してください。
| 区間の例 | おおよその距離 | 費用の目安 | 所要日数の目安 |
|---|---|---|---|
| 同一県内・隣県 | 〜100km | 15,000〜30,000円 | 1〜3日 |
| 東京〜名古屋 | 約350km | 25,000〜45,000円 | 2〜5日 |
| 東京〜大阪 | 約500km | 35,000〜60,000円 | 3〜6日 |
| 東京〜福岡 | 約1,100km | 60,000〜100,000円 | 4〜8日 |
| 本州〜北海道・沖縄 | 航路を含む | 80,000〜160,000円 | 1週間前後〜 |
※ 車種・車両サイズ・時期・引取場所により変動します。必ず複数社に見積もりを取って確認してください。
この幅の広さには理由があります。陸送業者は積載車1台に複数台をまとめて積む混載便を基本としており、同じ方向へ向かう車が集まるほど1台あたりの単価が下がります。逆に、急いでいて自分の車だけを単独で運ぶ単車便(チャーター)を選ぶと、相場の2倍近くになることもあります。急がないなら混載、日程が動かせないなら単車、という使い分けです。
陸送料金の幅が大きいのは、混載便か単車便かで単価がまったく違うからです。日程に余裕があるほど安くなります。
料金を押し上げる要因もいくつかあります。ミニバンや大型SUV、1BOXなど車両サイズが大きいほど積載車の占有スペースが増えるため、割増になります。改造車や車高を下げた車は積載車への積み降ろしに手間がかかるため、追加料金や引受拒否の対象になることがあります。動かない不動車も、専用の設備が必要になるので別料金です。
時期の影響も無視できません。3月から4月上旬は引っ越しと法人の異動が重なり、陸送業界も年間で最も混み合います。この時期は料金が上がるだけでなく、希望日に手配できないこともあります。1週間から10日程度の余裕を見て、遅くとも引っ越しの1か月前には見積もりを取り始めるのが安全だと感じます。
業者選びでは、貨物自動車運送事業法に基づく事業許可を受けた事業者かどうかを確認しておくと安心です。個人が車を届けるサービスをうたうものもありますが、事故時の補償や車両の扱いが不透明なことがあります。料金の安さだけで選ぶより、見積書に補償の範囲と引取・納車の条件が明記されているかを見たほうが、結果的にトラブルが少ないと感じています。
見積もりを比べるときは、引取と納車の場所が料金に含まれているかを必ず確認してください。自宅まで取りに来て新居まで届ける「ドア・トゥ・ドア」と、最寄りの営業所やデポまで自分で持ち込む「デポ渡し」では、同じ距離でも数千円から1万円以上の差が出ます。安く見える見積もりが実はデポ渡し前提だった、というのはよくある行き違いです。
引っ越し費用の目安を先に知っておくと、この記事の内容も判断しやすくなります。
30秒で相場をチェック(無料)→次に、自分で運転していく場合の実費を計算します。ここでは燃費12km/L、レギュラー1L=170円、ETC割引適用の普通車という条件で試算しました。燃料価格は日々変動しますし、燃費も車種と走り方でかなり違いますので、金額そのものより「距離÷燃費×単価+高速代」という計算式のほうを覚えておいてください。
| 区間の例 | 燃料代の目安 | 高速代の目安 | 運転時間の目安 | 実費合計 |
|---|---|---|---|---|
| 〜100km | 約1,400円 | 2,000〜3,000円 | 1.5〜2時間 | 約4,000円 |
| 東京〜名古屋(約350km) | 約5,000円 | 6,000〜8,000円 | 4〜5時間 | 約12,000円 |
| 東京〜大阪(約500km) | 約7,000円 | 10,000〜12,000円 | 6〜8時間 | 約18,000円 |
| 東京〜福岡(約1,100km) | 約15,600円 | 22,000〜25,000円 | 13〜15時間 | 約40,000円+宿泊費 |
※ 燃費12km/L・170円/L・ETC割引適用で試算した概算です。実際の料金は車種・時間帯・経路により異なります。
こうして並べると、500km程度までなら自走のほうが明らかに安いことが分かります。東京〜大阪で比べると、陸送が35,000円から60,000円なのに対し、自走の実費は2万円弱。差は2万円から4万円あります。100km程度の近距離になると差はさらに開き、わざわざ陸送を頼む理由はほとんどなくなります。
ただし、表に出てこないコストがあります。まず時間です。東京〜大阪なら休憩を含めて8時間前後、東京〜福岡なら丸1日がかりで、途中泊が現実的な選択になります。宿泊費が1万円前後、食事代も加われば、費用差はかなり縮まります。そして何より、引っ越し当日やその前後にこの運転を入れられるのか、という問題があります。
自走の本当のコストは燃料代と高速代ではなく、丸1日を運転に使うことと、到着後に疲れきった状態で荷解きに向かうことです。
もう一つ見落とされがちなのが、片道分の移動をどう処理するかです。旧居から新居へ車で行くのは片道ですが、家族が2台で移動する、あるいは荷物の都合で先に新幹線で移動している場合、誰かがもう一度旧居側へ戻る必要が出てきます。この復路の交通費まで含めると、自走の優位はさらに小さくなります。
高速代は、走る時間帯や経路で意外に変わります。深夜割引や休日割引が使える時間に走れば、区間によっては数千円単位で下がります。一方で、渋滞を避けようと下道を選ぶと、時間が倍近くかかって疲労も増え、結局は割に合わないことが多いです。節約したいなら経路ではなく時間帯を工夫するほうが確実だと思います。
車そのものへの負担も、金額に換算できます。1,000kmを走れば、それだけタイヤも消耗し、オイル交換の時期も早まります。車を資産として長く維持したい人にとって、走行距離が1,000km増えることは下取り価格にも響きます。私は、長距離を自走するかどうかは「その日を運転に使ってもいいか」で決めるのがいちばん納得がいく、と感じています。
陸送を選んだ場合の手順は、おおむね次のとおりです。引っ越しそのもののスケジュールと並行して動くことになるので、早めに着手してください。特に見積もりの段階で引取日と納車日の目安を握っておくと、その後の予定が組みやすくなります。
車内の荷物は原則として積めません。輸送中に破損したり、車体を傷つけたりする恐れがあるためで、貴重品はもちろん、段ボール1箱でも断られるのが普通です。「どうせ空きスペースだから」と荷物を積むつもりで陸送を検討していた人は、この前提で計算し直してください。荷物は家財と一緒に引っ越し便で送ることになります。
ガソリンは満タンにせず、4分の1程度にしておくよう案内されることが多いです。重量を減らす意味と、安全上の理由があります。ただし納車後にすぐガス欠になっても困るので、業者の指示に従ったうえで、新居側で最初に給油できる場所を確認しておくと安心です。
引取時と納車時の傷の確認は、必ず自分の目で行ってください。事前に洗車して写真を撮っておくと、万一のときの話が早く済みます。
輸送中の万一に備える保険についても、契約前に確認しておきたいところです。陸送業者は運送業者としての保険に加入しているのが通常ですが、補償の上限額や対象範囲は業者によって違います。高年式車や高額な車の場合は、補償上限が車両価格に届いているかを見ておいてください。回送方式の場合は、ドライバーが実際に公道を運転するため、事故時の扱いが積載車とは異なります。この点も事前に説明を求めるのが確実です。
納車日は「◯日から◯日の間」と幅を持たせて案内されるのが一般的で、時刻の指定まではできないことが多いです。仕事や手続きで動けない日が続くなら、家族に立ち会いを頼むか、その期間を避けて依頼日を調整してください。受け取りに立ち会えないまま置いていってもらう形にすると、後から傷が見つかったときに原因の切り分けが難しくなります。
そして、車を運ぶこととは別に、住所変更の手続きが必要です。自動車の登録上の住所変更は、道路運送車両法に基づく変更登録として、住所を変えてから15日以内に行うこととされています。あわせて、保管場所(車庫)が変わる場合は、自動車の保管場所の確保等に関する法律に基づく保管場所証明の手続きも必要になります。運転免許証の住所変更、任意保険の住所・車庫地の変更も忘れずに。手続きの詳細は管轄の運輸支局・警察署で異なりますので、事前に確認してください。
ここまで、陸送と自走を費用と時間の両面から見てきました。金額の比較は表のとおりですが、実際に迷うのはその先です。最後に、どこで線を引けばいいのかという判断の軸を整理しておきます。数字は目安であり、車種や時期で動きますので、自分の条件に置き換えて読み替えてください。
費用だけで比べれば、500km程度までは自走が有利です。東京〜大阪で自走の実費が2万円弱、陸送が3万5千円から6万円ですから、差は明確です。逆に1,000kmを超えると、宿泊費と復路の交通費が加わって自走の実費は4万円から5万円に達し、陸送との差はほとんどなくなります。
時間まで含めると、判断は変わってきます。長距離の自走は丸1日を消費し、その1日は引っ越しのいちばん忙しい時期から引かれます。荷解きも各種手続きも待っている中で、運転に1日を使えるのか。ここを正直に考えると、答えは自然に出てくるはずです。私は、無理に運転して到着後の数日を潰すくらいなら、その差額は払う価値があると考えています。
目安として、300km以内なら自走、1,000km超なら陸送。その間は、自分の時間をいくらと見るかで決めてください。
陸送を選ぶなら、混載便で日程に余裕を持たせること、引取と納車の場所が料金に含まれるかを確認すること、そして3月から4月上旬は早めに動くこと。この3点で費用も手配のしやすさも変わります。車内に荷物を積めないことも、計画段階で織り込んでおいてください。
最後に、運ぶ前に一度立ち止まってほしいのが、その車を運ぶ価値があるかという点です。車の下取り価格と陸送料金が近づいているなら、旧居側で売却して新居で買い直すほうが結果的に安く、手続きも一度で済むことがあります。運ぶ・売る・買い替えるの3つを同じ土俵で比べるのが、いちばん納得のいく決め方だと思います。
引っ越しトラックに自家用車を積むことは基本的にできません。標準引越運送約款が想定している荷物は家財で、自動車はその枠外です。引っ越し業者が車の手配に対応している場合も、実際には提携する陸送業者への取り次ぎであることがほとんどです。
距離にもよりますが、混載便で3日から1週間程度が一つの目安です。同一県内なら1〜3日、1,000kmを超える区間や離島を含む場合は1週間以上かかることもあります。3月から4月上旬は特に混み合うため、1か月前には手配を始めるのが安全です。
原則としてできません。輸送中の破損や車体の損傷を避けるため、車内の荷物はすべて降ろすよう求められるのが一般的です。カーナビやドライブレコーダーのような取り付け済みの機器は別として、持ち込む荷物は引っ越し便で送ることになります。
自動車の登録上の住所変更は、道路運送車両法に基づく変更登録として、住所を変えてから15日以内に行うこととされています。保管場所が変わる場合は保管場所証明の手続きも必要です。必要書類や窓口は管轄の運輸支局・警察署で異なるため、事前に確認してください。
車をどう運ぶかは、引っ越しの中では優先順位が下がりがちな項目です。ただ、陸送を選ぶ場合は手配に1週間以上かかることもあり、後回しにすると選択肢が狭まります。日程が決まった時点で、見積もりだけでも取っておくと安心です。
そして、費用の比較は実費だけで終わらせないでください。長距離を運転するその1日は、引っ越しの中で最も貴重な1日かもしれません。数万円の差をどう見るかは、その日をどう使いたいかで変わってきます。
運ぶか、売るか。距離と時間と車の価値、この3つを並べて比べれば、自分にとっての正解は意外とはっきり見えてくるはずです。